個人差はありますが、誰しも加齢とともに聞こえがわるくなってしまうことは皆様もご存知のとおりです。しかし近年、その難聴が健康寿命に大きな影響を与えている可能性が示されてきました。世界的に有名な科学誌の発表により、2017年に、難聴が認知症のリスクを増すと報告されました。2020年には別の論文で認知症のうち約40%が予防をできる可能性があり、その中でも難聴の割合が最も大きく約1割に及ぶと報告されました。
それ以外にも、難聴はうつ病の発症や運動能力の低下についてもリスク因子となる可能性が指摘されています。
特に先進国を中心に高齢化がすすんでいるため、健康寿命を延ばすことが重要視されており、難聴への適切な対応を行うことがのぞまれています。
その中のひとつが補聴器の適切な使用です。
2021年10月に、日本人を対象にした研究で、中等度難聴の方が補聴器を装用することで、一部の認知機能の低下を防ぐ可能性があることが報告されました。
以前は、一般的に補聴器というと高度難聴や重度難聴で導入されることが多かったのですが、これらの根拠から以前より早く補聴機を検討すべきとの意見が増えています。
ただし、補聴器はメガネのように使用したら急に聞こえるようになるようなものではありません。多くの場合は、必要な音を聞いていただくためには、聞こえのリハビリテーションもしくはトレーニングの期間が必要です。これまで聞こえていなかったぶん、急に大きな音が聞こえると、性能の良い補聴器で音を調整してもうるさく聞こえることが多く装用に不快感が伴うことが多い一方で、使いはじめは1日のうちのできるだけ長く装用し、少しずつ慣らしていくことが求められます。慣らしていくことで、少しずつ必要な音を入れることができるようになり、期待される効果を得ることができるようになります。
このように補聴器は専門的なトレーニングなしでは適切に使用できる可能性が低いため、共にトレーニングをすすめられる環境が必要とされています。
補聴器相談医、補聴器適合判定医師として、地域の補聴器を必要とする皆さまに、ぜひ適切に補聴器を使用いただく環境を整えたいと考えています。
当院では、豊富な経験と知識が必要な認定補聴器技能者と連携し、必要であれば3ヶ月のレンタル期間を設け、その期間で聞こえのトレーニングを行い、適切に使用することができる補聴器を選んでいただけるようにしました。この導入の時期はとても重要で、しっかりと相談していくことが必要であるため、専用の補聴器相談室も設けています。もちろん、補聴器の適応でなく、手術などで聞こえが戻る可能性がある場合や、人工内耳などの補聴器以外の治療の適応となる場合には対応可能な病院にご紹介するなど、考えられる最善の方法を提示していきたいと思っています。
聞こえでお困りの方はぜひご相談ください。